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鍵を拾った話をしよう。

鍵を拾いました。

正確にいうと、かぎ尻尾のひとりの猫です。キジトラの茶+グレーがかった子です。

最初の出会いは昨年の5月あたりでした。彼は突然わたしの前にとびだして、ころんと転がってみせたのでした。おそらくそのとき、彼は生後ひと月かふた月。500mLペットボトルより二回りおおきいくらいの小さな子でした。

 

結論からいうと、ずっと拾えませんでした。でも気にかけていました。台風の日、雨の日、風の強い日、熱さの激しい日、凍えるほどの寒さの日。その子はとても頭がよくて、人間に媚びる方法を学習していた。多分そうなのだと思います。兄弟猫がいました。彼を含めてぜんぶで5匹。

ひとりはおそらく保護されて、ひとりは単独で行動していて、ひとりはつかず離れずの距離で行動を共にしていた。キジトラの、かぎ尻尾以外はそっくりな二匹は、ふたり寄り添って暖をとり、寒さをしのぎ、ご飯をくれる人間を探し、危険を回避し、隠れては、また戻ってくる。そんな生活を10ヶ月以上は続けていた。

他の子は普通に、臆病でした。人間をみても、近寄っては来ない。その4匹に、彼は人間の扱い方を教えるようにして、身を以て報せたのでした。潜む能力はとても高かった。そこにいるだろうと思っても、みつけられないくらいにひっそりいつも隠れていた。そして彼は人間を吟味して、「安心な人間」の前に真っ先に飛びだし、他の子たちへ教えたのでした。その様子を見て、キョウダイ猫たちは、真似をしておそるおそる、「コロン」ところがったり、すり寄ってきたのでした。

ある寒い冬は、キョウダイ猫たちは私の膝の上を奪い合うように乗り合い、一時間も暖をとっていました。その間、「彼」は、ほんの少しだけ離れた場所で、その様子を見ていました。真っ先に彼らに教えるかわりに、他の子たちが「恩恵」を受ける際には、控えていた。

だけど、いつも飢えていた。怒りながら食べていた。あちこちに異変があるようだった。突然びくっと固まって動かなくなることもあった。

実はわたしは彼らにそれほどご飯を上げていません。なぜかというと、その子たちにご飯を上げている人が数多くいたからです。ノラ猫にご飯をあげることに関する論は数多くあれど、その多くがおおむね否定的で、今日明日の飢えをしのいでも、彼らのたどる道筋が大きくは変わらない。「自然社会」とはとてもいえない人間社会に生きるしかない彼らに対する人間の「関与」に関して、人間の善悪ははたして神にはどのように映るのでしょうか。

脱線しました。

結論からいうと、その「彼」に会いに行きました。雨の夜、深夜1時頃。いつもなら絶対にいない公園に。キャリーをもって。

こんな時間に行っても絶対に居ない。

そう思いつつ、行き過ぎる。誰もいない。声もしない。私も呼ばない。ああやはりいないのだと。そして帰ろうとした際、彼はひょいと目の前に現れた。

私はコンクリートの段差に座った。彼は横にいた。キャリーを横に置いた。彼はそこへ自ら入った。

そしてそのまま迎え入れました。

一月後、彼は今、入院しています。名前は「暮(くれ)」と名付けました。かぎ尻尾の子だから、鍵=clef フランス語です。クレ、という響きにたいして、漢字をひとつ置きました。暮らしていけるようにと。

口内炎を患っていても、免疫疾患があっても、生きる力の強い子です。私を選んでくれたのであれば、応えるしかないと思いました。後戻りはできない。

保護活動をしている人にとっては大袈裟に聞こえる覚悟かもしれません。でもずっと、今三匹目の猫を迎えることは、身分不相応だと自分を律してきました。

なぜか何匹も何匹も、色々な猫たちに逢いました。脚を失っている子もいた。彼らの命を思うたびに、この社会の「厳しさ」というより「摂理」的なものに想いを馳せ、ただ、この「摂理」には、すこし以上とても「不自然な」人間の「決まり」が絶対神のように君臨していて、よくよく人間は現在の地球では支配者然としており、やることなすこと肯定すべき理由を自己防衛のように用意していて、殺すも生かすも「然」としていた。

ただいまは、小さな小さな、でもとても大きなひとりとの出逢いで、家族としてやってきました。

 

今日はその記録まで。

 

然とは。

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