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ハミング距離 “Hamming Distance”
いかがおすごしですか。にじのです。このたび、第14回ノベラボグランプリで最終候補に選んでいただいた「そのハミングは7」について、製作時のことをふりかえりながら、すこしゆっくりになると思うのですが、いろいろと書いていきたいと思います。
それが、『ホテルエデン』
――生と死、別れ……
わたしたちにとって魂となる物語です。
――ペットロスを乗り越えるために、すべての人に届く作品をつくりたい。
構想は、2月の時点ですでにありました。しかしまだ描ける自信がなかったので、何を考えたかというと、
――エデンを描くまえに、文章力・表現力を高めよう。
僕はハミィの散歩の途中で古ぼけた鍵を拾った。その鍵の持ち主はジャン・グッドスピード。酒もタバコも音楽もやるふざけたロクデナシだ――僕はそう思った」
――『そのハミングは7』より
主人公トビーは、1992年8月ハリケーンにより視力を失います。物語はトビーの視点で進んでいきます。
この物語のテーマとしているのは
――「事実」 と 「真実」
です。
大変難しいテーマを選んだと思います。目に見えるもの、見えないもの。そして、闇の中で蠢き続ける少年に射し込む、ジャンという光。
人はある意味誰でも盲目で、見えていると思っていても、それが本当に見えているのか、事実と真実とはなにか、揺らぐ心と、人と人とのかかわり。
この物語にはたくさんの「対比」をつくりました。真実はそれを見たそれぞれの者の心の内にあります。見えないトビーの目を通して、ニネベの町の人々がそこで何をしているのか次第に明らかにしていく――そういう構成をとりながら、事実と真実とはなんなのか、それを自分たちなりに完成させたつもりです。
目に見えない世界を、トビーの心によりそって、物語を進めていく。トビーには、なにも見えていないのです。音と感覚、そして流れる空気・気配が頼りです。
書いている間、にじのは普段とはまったく違う感覚の中でくらしていました。普段なら、感じないはずのにおいに気分を害したり、光のまぶしさに酔ったり、微かな振動で頭が痛くなったりしました。
タイトルにしている、『ハミング距離』。なかなかここにたどり着きませんね。いつものことですが、申し訳ありません。
さてこのハミング、作中では飼っている犬の名前です。
ハミング、きいたことありますね。そう鼻歌。
Humming……違います。鼻歌ではないのです。
ハミングは、Hamming。<u> ではなく、<a>なのです。
情報理論において、ハミング距離(ハミングきょり)とは、等しい文字数を持つ二つの文字列の中で、対応する位置にある異なった文字の個数である。別の言い方をすれば、ハミング距離は、ある文字列を別の文字列に変形する際に必要な置換回数を計測したものである。この用語は、リチャード・ハミング(Richard Wesley Hamming)にちなんで命名されたもので、鼻歌(humming)ではない。
ハミング距離は、遠距離通信における固定長バイナリー文字列の中で弾かれたビット数や、エラーの概算を数えるのに用いられるために、信号距離とも呼ばれる。文字数 n の1ビット文字列間のハミング距離は、それらの文字列間の排他的論理和のハミング重み(文字列内の 1 の個数)か、 n 次元超立方体の 2 頂点間のマンハッタン距離に相当する。
ハミング距離の例:
- 1011101 と 1001001 の間のハミング距離は 2 である。
- 2143896 と 2233796 の間のハミング距離は 3 である。
- “toned” と “roses” の間のハミング距離は 3 である。
異なる文字数の文字列を比較する場合や、文字の置換だけではなく挿入や削除が求められる場合には、より適切なレーベンシュタイン距離のような洗練された計測法が存在する。
この記事はen:Federal Standard 1037Cに基づく。
むずかしいこと引用しちゃいましたが、作中ではトビーの父ちゃんが、もうちょい簡単に説明してくれています。
ようはざっくりまとめちゃうと(またはじまった……)、文字列の中で、違う文字がいくつあるかっちゅうことです。
うわー。我ながら、乱暴だ。懲りずにいきます。
たとえば、
「きのこ」と「きこり」――同じなのは、「き」だけ。異なるのは「のこ」vs「こり」の2文字。ハミング距離「2」
「サラダ」と「サラダ」――まったく同じ。ハミング距離「0」
「からだ」と「からし」――同じなのは、「から」。異なるのは「だ」vs「し」の1文字。ハミング距離「1」
で、ここでいう「そのハミングは7」というのは、そのハミング距離が7だということなのですが、犬の名前ハミングと、主人公トビー(トビアス)の名前の差。
「Hamming」と「Tobias」――”どこにも同じものがない。”
ここがタイトルの由来となっています。
「トビー。私たちは君を心から愛している。それはわかっていてくれていると思うが、幼い君には重すぎるほどの出来事を君は経験してしまった。守れなかったことは私たちの責任だ。本当にすまない。しかしこれからも君は歩いていかなければならないんだ。まったく新しい人生になる。トビー、君の新しいこれからの生活に、この新しい仔犬をともにガイドとして歩んでいってほしい。そのハミングは7だ。とても遠いように感じるかもしれない。それでもいかに異なると思うものでも必ずたどり着く。それを忘れないでほしい。まったく異なると思われるものでも類似性は作り出せる。7は知っているように、とても幸運な数字だ。トビー、ハミングが君の新しいパートナーになってくれることを、私は願っているよ」
――「そのハミングは7」より
ちょっと謎めいてきたところで、今日はおわります。
読んでいただいて、ほんとうにほんとうにありがとうございました!
nijino noran.
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