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20257/28

ゆめで(Lyric)

夢で。

消し飛びそうになるほど
焦がれて焼かれて好きだったあのひとにあった

脱衣所から家の裏に通じる扉にすりガラスの向こうに
そのひとはあの頃と変わらぬ姿で
伸びきって 境界をまたぎ隣の敷地を侵犯し始めたアイビーを
刈り取ってくれていた

その一部は すでにわたしが鋏で切り取って
枯れるに任せてコンクリの土台の上に放置していたもので
それを胸に抱えて 誰かとすこし言葉を交わしながら
持ち帰ろうとしていた

剥き出しだったコンクリは
増殖しきったアイビーで踏み場はなく
猫の足音もかき消されるその裏口で
やぶ蚊が増え すっかり出ることすらなくなった裏口で
わたしの放置した増殖したアイビーが
一部切り離されて枯れ果てて 色を変えたアイビーが
そのひとの両腕のなかで 処分のために運ばれていくのを悟る

すきで すきで すすきのて

わたしのあいは 彼の膚にとどくにはたよりなく揺れ続け
すすきの穂先についた涙は零れ落ちるでもなく霧散する

あいで あいして あいのてで

こころ通い合わすには なにもかもが整わなかった

夢で。

わたしはそのひとにすきだと伝え その胸を抱いた
痩せた? とたずねると
そりゃそうだよね とそのひとはこたえた

そうだよね としか答えようがないわたしも
でもそれを声にだしたかどうか
でもそれを声にだせたかどうか
憶えていない

一瞬前の夢の話で。

それでも すきだったというこころは憶えている
思い出さないように重い蓋を唇に載せて
わたしは黙し続けてきた

ぬか床の底にたまった酪酸菌は
饐えた濡れ靴下の匂いがする

作業手袋を脱いだばかりの あのひとのてのひらも
そのようなにおいがしていたことを 思い出す

呼吸のあさくなる あさだった

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