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un jour, un chien.
こんにちは。虹乃です。
今日は2冊目の絵本のご紹介を。
ベルギーの絵本作家さん、ガブリエル・バンサンの”un jour, un chien”、邦題『アンジュール ある犬の物語』です。これがガブリエル・バンサンの処女作品で、彼女の作品のうち、これのみが唯一まったく文字のない絵本だったかと思います。
意味は、「ある一日、ある犬」という意味なのですが、鉛筆デッサンのみ(どちらかというとクロッキーに思えます)で、素晴らしく訴えるものがある絵本です。
わたしはこの絵本に出逢ったとき、おそらく18歳か19歳だったと思います。
ふと立ち寄ったヴィレッジヴァンガードで、パラパラとめくり、どうにも止められず、その場で号泣してしまいました。
とめよう、とめようとしても、涙があふれて、鼻水も出てきて、まだ半分もいっていないのに、次のページが海の底に沈んだようになって見えないのです。海の底から海面越しに太陽を見つめるがごとく、それはまぶしくゆがみました。同時に切なく、激しく、わたしのなかの、”なにか”が決壊しました。
捨てられた一匹の犬が、街をひとりさまよい、
さまよい……
さまよい……
汚れ、邪険にされ、追い払われ……
なにかを見つけては、駆け寄り……
期待にあげた尻尾を、内側に巻きます……
そしてあげく……
一匹の犬は、ひとりの少年に出逢います。
これまで、なんども期待して裏切られ、街を彷徨ってきた犬は、今度は少年に駆け寄ったりはしませんでした。ただ、遠くから、眺めて、座ったまま、首をかしげているような、そんな後ろ姿を見せるのです。
少年は、遠くから、犬を見つめます。
ただ、中腰になって、犬を見つめます。
そして首をかしげます。
その距離は10メートルほどあるのでしょうか。
犬は、座ったままです。
少年の後方に、彼が置いた荷物があるのが、見えるでしょうか。
少年はゆっくりと、犬に、近寄っていきます。
この間、静かに、ただ静かに、数ページ。一番、好きなシーンです。
そして……
とまらない涙が、次から次へと溢れました。
なぜ人は泣くのでしょうか。泣くには理由があります。
すごくすごくたくさんの、すごくすごく深い、言葉ではおそらく説明できないそのわけが。
わたしにとってはこの”un jour(ある日)”が、たった一冊の言葉のない絵本によって、閉ざされていた想いに、暗闇に、よろめくほどのまぶしい光を浴びせた瞬間でした。
それ以降ずっと宝物です。そして心から愛する大切なひとへ出逢ったとき、わたしはこの本を贈りました。
ガブリエル・バンサン著『アンジュール(Un Jour, Un Chien)』原版は1982年、日本版はブックローン出版(現BL出版)より1986年に出版されています。
今日もお読みいただき、ありがとうございました!
nijino noran (A)
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2016年 11月 24日
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