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控えめに、たたみかける自嘲(ココア共和国2025年佳作集II)

手垢のついた常識を身に纏い、ぽっと出で数年後には消えてゆくであろう実態のない儚げない流行語を適時軽めに振り回し、初めて連絡する人にいつもお世話になっていますというこの嘘ばかりの世界。いや、世界って呼んだのは嘘だ。嘘じゃなければ大げさか、言葉の使い方はどうだっていい、ただそれは僕の世界がとても狭いからというただそれだけのことで、地球上のどこか、僕の知らないこの世の中のどこかには、出逢ったばかりの片脚の少女のために、涙を流し、彼女を抱きしめ、ベッドを用意する人たちだっている。そのふたつの世界は、両立しそうでいて、どこかの真ん中で置き去りになったままの僕の心は、そんなことあってたまるかと思っている。

口の端は歪むが、その垂れ下がった唇の、皮がめくれ、真皮が醜く姿を晒した唇の、その歪んだ僕の口元を眺めることが叶うのは、脱衣所にある薄汚れた鏡だけ。左右反転された僕の人生に、点状の白い水垢レイヤーがかかり、それは擦っても剥がれきらない代物だ。

見落とした水垢は、眼鏡を外して掃除機をかけた後の部屋のように絶妙に地にこびりついていて、いったいいつのものだったのかさえ、記憶を辿るもたどり着けない。降り注いだ雨は空へ還ることはできず、深く深く、流されるのみ。それでも僕は口の端を歪めつつ、一滴の干からびた水垢を、ささくれた親指の先にある弁で、今日も鼓する。

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